英国 The Economist 誌を読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economist を読んだ感想を書きます

かつての時価総額世界一の企業は今年も石油を探している

2月9日号の The Economist 誌の Breifing は世界最強の石油会社 ExxonMobil についての記事でした。

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曰く、パリ協定の合意事項を尊重しつつも ExxonMobil は石油への投資を増やし、生産量を増加させる戦略を取っているとのこと。環境団体の圧力に屈する形で温室効果ガス削減目標を掲げた Shell とは異なります。

 

同誌によれば、楽観的なシナリオでも2030年の電気自動車の割合は15%に留まるそうです。また、ローリー車や飛行機の電動化は更に時間がかかるため、石油の需要は継続して見込まれます。その石油関連から見込まれる安定した利益を源泉とする配当金を目当てに、世界の機関投資家は石油会社への投資を近年むしろ増やしているそうです。

 

石油の需要の伸びは固く石炭の代替でガスの需要が伸びる、という絵が描ける限り、石油ガス会社への投資は短期的には正解だと思います。特に、ガスについては「再生可能エネルギー普及までの石炭石油からの橋渡し役」という大義名分で走ることができる分野です。ExxonMobil は他のオイルメジャーである BP, Shell, Total らともにロビー活動にも力を入れていて、政治をよくわかっている大企業は強いな、という気持ちを改めて持ちました。日本とのかかわりでは米国産 LNG が注目されていますので、引き続き見ていきたいと思います。

全豪オープンの勝者と故郷の島国

The Economist 誌の2月2日号からは全豪オープンテニス女子を制した大坂なおみ選手の記事です。

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記事では、大阪選手は根室出身の母親とハイチ出身の父親の間に生まれており、日本語よりも英語を話す方が気が楽であると語っています。また、日清食品が CM で大阪選手の肌の色を薄く(より日本人的に)表現したことにも触れています。

 

また記事の中では日本の中に根強く残る「日本人である以上、流暢な日本語を話し、日本人らしく行動すべき」という価値観を紹介しつつ、ハーフの問題点にも触れています。同誌によれば、国際結婚をする日本人は全体のわずか3.4%だそうです。

 

そして記事の終わりに、大阪選手は22歳で日本国籍を維持するか捨てるかの選択を余儀なくされることにも触れています。個人的には、ぜひこの頑固な日本人的考え方を貫いてもらいたいと思っています。別に、テニスに強いからといって特別扱いするべきでもないでしょう。大阪選手は米国国籍を選ぶと思います。もしそうなっても日本のメディアは「日本出身者」として誇らしげに大阪選手の活躍を報じてくれるでしょう(ノーベル賞アメリカ国籍の人が受賞しても、過去日本人であった場合に大喜びするように)。

意外と余裕なんですか?中国さん

The Economist 誌の1月24日号に米中貿易戦争に関する社説が載っていました。

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中国の経済成長が鈍化しているのは明白だが、なぜトランプ大統領の思惑とは裏腹に習近平国家主席は悠長に構えているのだろうか?という疑問に答える記事です。

 

具体的には、経済成長率ではなく経済成長額では過去最高を記録した。経済成長に対する輸出の割合が過去に比べて小さくなった。GDPの負債比率の減少を達成した。とはいえ、名目成長率は著しく低下しているし、スマートフォンに代表される消費のスピードも低下するなど(企業の賃金カットなども原因)不安要因もある。という論調でした。


結論としては、たしかに中国はアメリカとの貿易戦争を終えたいと思っているでしょうが、そこまで必死というわけではなさそうです。

 

 

離婚がもたらす最強の本屋への影響

The Economist 誌の1月17日号にAmazon創業者のベゾス夫妻の離婚に関する記事が載っています。(私の中で Amazon は依然として本屋のイメージが強いです)

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ベゾス夫妻が住むワシントン州においてベソス夫人は離婚によって資産1370億ドルの半分を得る権利があるそうです。もともとベゾス氏は他のテック企業の創業者と異なり、Amazon 社の株式保有率が16%と低く、特別な投票権や会社のコントロール権も有していません(Facebook社創業者のザッカーバーグ氏は51.3%を保有し会社をコントロールしています)。

 

この 16% が 8% になる場合、たとえば機関投資家の Vanguard 社はすでに 6% を有していますので、Amazon におけるパワーバランスにも変化が生じるでしょう。(また婦人はベゾス氏の進める案に反対する可能性も高く、思うようなかじ取りが出来ないことも予想されています)

 

また、離婚後のベゾス氏は失った財産を取り戻すために、きわめて挑戦的な経営判断をする可能性があります。これは多くの離婚した経営者に見られる傾向のようです。専門家の中には、Tesla 社創業者のマスク氏よりもベゾス氏の方が「替えの効かない CEO」とする見方もあり、今後の Amazon 社の動向および離婚のもたらす影響について見ていきたいと思います。

都市部から地方への移住と移民

1月10日号の The Economist 誌にオーストラリアの移民に関する記事が載っていました。

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曰く、オーストラリアのある田舎町で400人程度のクルド人(ヤジド派 - イラクやシリアの少数派)難民受け入れにより、大学は英語教室で溢れ返り、学校は保護者のための通訳者を雇い、町には見たことのない病気が流行っているとか。この人道的難民受け入れは移民政策の一環で地方の人口減への対応として期待されているそうで、特に農家では人手不足が深刻であるため、空いている農場活用に移民(同国都市部からの!)受け入れを積極的に行っているみたいです。これは人口増で苦しむ都市部へも寄与しているとのこと。

 

その上、現政権はこれを更に積極的に進めて、50万人規模の外国留学生をシドニーメルボルンではなく地方大学に進むようビザ要件変更やインセンティブ設計を検討しているようです。同誌としては、そもそもシドニーメルボルン自体が移民によって繁栄している街であるし、待遇を下げてしまうと誰もオーストラリアに来なくなるんじゃないの?と締めています。


現状、先進国としてのオーストラリア(特に都市部)の魅力は高いけれど、それに伴って増加している生活コストが高すぎる。そのため「人道的難民」のようなキャッチーで世界に貢献している形を示すことができる解決策はとてもいいと思います。とかく英語を話す国であれば移民後の次世代(いわゆる移民二世や三世)が活躍できる可能性を秘めているから、親世代は苦労してでも(それが仮に田舎だとしても)オーストラリアに行きたいと思うのではないでしょうか。

伝統的な捕鯨と IWC 脱退

新年最初の The Economist 誌は1月3日号です。今回は日本の捕鯨に関する記事(社説)が載っていました。

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同誌曰く、安倍首相が保守派に配慮した政治的な結果であるとのこと。ロシアとの北方領土問題での妥協や外国人労働者の受入増加によって不満の溜まっている保守派に対して、日本の伝統的な捕鯨を守ることを示すことは都合の良い策であるとの見立てです。筆者は補助金で支えられている捕鯨は徐々になくなっていくべきだ、と〆ています。

 

日本が IWC (International Whaling Commusion) から 2019 年に脱退する予定であると知れると、日本はオーストラリアをはじめとする世界各国から非難されています。これはアメリカがパリ協定から脱退すると表明した時と同じような状況と言われています。

 

そもそも(実際問題として南極海での調査捕鯨を継続するだけの資金的余裕もあまりないように見える)日本は IWC から脱退したとしても南極海での捕鯨は行わないと約束しており、オーストラリアとニュージーランドにとっては、ともに中国と対峙する日本との外交的なしこりが取れることになるでしょう。また日本国内でのクジラ肉の需要も少ないのが実態です(同誌は学校給食や老人ホームでの食事にしか使われないだろうとしています)。

 

面白いなと感じたのは、この社説は伝統的に捕鯨を文化としてきた国々への言及をしていることです。IWC からの脱退は日本の領海での捕鯨(ミンククジラ)を可能にして、ミンククジラに捕食されていた魚の漁獲量も上がることになるでしょう。尤も、IWC の構成国に領海を持たない国が入っていることも相互理解コンセンサスを醸成できない原因であるとも考えられますし、今次的にはそれぞれの国の伝統を重んじる姿勢をもっと強く示すべきだと思います。(捕鯨を非難するオーストラリアでは、カンガルーを食べます)

ソフトバンクの上場ゴール

The Economist 誌の12月18日号にソフトバンク上場に関する記事が載っていました。

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多くの人が予想できなかった「公募割れ」という結果で終えたソフトバンクIPO は日本過去最大の IPO となり、アリババの IPO にわずかに届かない約2兆6000億円という巨額の調達を達成しました。同社は日本の携帯事業で第3位であり、国内通信事業は7000億円の部門利益をたたき出しています。

 

上記の通りソフトバンクの利益の源泉である事業ですが、今後人口減となる日本国内市場は成熟しており、また、楽天が携帯事業参入を表明するなど競争も加わります。また、先日の大規模停電という別の解決するべき問題も抱えている状況でしたが、大々的に行った TV コマーシャルの効果もあってか、無事に調達完了(株主にとっては散々でしょうが)ということです。

 

孫さんにとっては、IPO から得たキャッシュを VISION ファンドに投入するのでしょうし、ソフトバンク株の低迷の原因となっている(携帯事業のような安定ビジネスを好む)保守的な株主の割引を避けられる契機になるかもしれないでしょう。とはいえ、 VISION ファンドはサウジとの繋がりが深いため、ジャーナリスト殺害の疑惑が晴れない限り、「サウジ色のついた」お金をベンチャー企業が受け入れない可能性もある、という見方もあります。

 

それでも今回の調達によって、手元に現金を得られることで非常に安心して進められるのではないでしょうか。IPO に運悪く当たってしまった投資家たちにとっては、悲惨な道のりのスタートなのでしょうが。