英国 The Economist 誌を読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economist を読んだ感想を書きます

ゴールドの魅力と限界

少し時間が空いてしまいましたが、引き続き The Economist 紙の記事を紹介していきたいと思います。今回は目下のイラン戦争とゴールドの魅力とその限界についての記事です。

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ゴールド(金)は債券のクーポンや株の配当のようなキャッシュフローを生まないため、保有理由は基本的に収益資産ではなく保険資産にあるでしょう。人類が長く価値を認めてきたため、極端な危機でも無価値になりにくく、しかも他の資産が傷む局面で上がりやすいというのが伝統的な見方でした。ところが、今回の米国及びイスラエルによる対イラン戦争とそれに伴うエネルギーショックという、本来なら金が買われやすい局面で、金価格はむしろ大きく下落しました。これは、金は万能の安全資産ではないことを示している、との同誌の見立てです。

 

下落の一因はインフレ連動債の実質利回り上昇である、と同誌は見ています。たしかに投資家は金をクーポンのないインフレ連動債のようにみなすため、実質利回りが上がると金の魅力は落ちます。加えて、各国中銀の売却も重なった可能性もあるでしょう。近年の上昇で含み益が大きくなったため、自国通貨の防衛や財政目的で一部を利食いする動きが出やすいことはたしかです。しかし、それだけでは説明できません。そのため同誌も、金そのものがかつてのビットコインのように、投機的なミーム取引の対象になっていると主張しています。昨夏から今年2月末までの大幅上昇は金 ETF への資金流入と重なっており、足元の下落はそうした投機資金の巻き戻しで加速した、という考えです。これは私も一理あると思います。

 

したがって、金はあらゆる危機に効く普遍的なヘッジではないと考えるのが良いでしょう。ただし、金の本質的な魅力は地政学ショックそのものではなく、政府債務膨張や通貨価値の毀損に対する防衛にあります。戦争や補助金政策で財政悪化が進むなら、本来は金に追い風のはずです。にもかかわらず下がるのは、短期的には投機筋や利益確定売りが今のロジックを上回るからです。いずれ勢いだけで売買する資金が去れば、通貨価値の劣化に備える資産としての金の需要は再び前面に出ることになると考えます。

 

どの水準で投機的な買いが出尽くすかは分からない、という結論ですが。

原油価格の上昇に比べてゴールド価格は下落

 

ドンロー主義の実例

今年も The Economist 誌を読んで内容をまとめたいと思います。

早速ですが、2026年1月10日号の The Economist 誌から、米国によるベネズエラの独裁者ニコラス・マドゥロを拘束事件に関する記事です。トランプ大統領の外交思想がもたらす危険性に触れています。

In Donald Trump’s world, the strong take what they can

出典:The Economist

曰く、マドゥロ政権は選挙の強奪、反対派への暴力、経済の崩壊、国外への大量流出を招き、さらに麻薬組織やイラン、ロシア、中国と結びつく国際的な脅威でもあった。その意味でマドゥロ排除自体は歓迎され得るが、問題は「どのように」「なぜ」行われたかにあるとのこと。

 

作戦は短時間で成功し、米軍の圧倒的な軍事力を誇示した一方、これは体制転換ではなく限定的な急襲にすぎないとの同誌見解。マドゥロは消えても、抑圧装置や武装勢力は残り、後継者の下で混乱や内戦の危険も高まっている。トランプは「ベネズエラを支配した」と豪語するが、恒常的な支配を実行する現実的手段は乏しい。

 

より深刻なのは動機である。トランプは民主主義や人権ではなく、資源と力の支配を前面に出し、ベネズエラの石油をアメリカのものにすると公言した。民主派で国民的人気を持つ指導者を軽視し、武装勢力を重視する姿勢は、自由選挙や法の支配に背を向けるものだ。これは力ある者が奪うことを正当化する彼の世界観、いわゆるドンロー主義の実例である。

 

この姿勢は米国の同盟関係と国際秩序を傷つける。近隣諸国は一時的に屈服しても、長期的には主権回復を求め、中国など他の大国に接近するだろう。力による威圧だけでは持続せず、むしろ米国の影響力を弱める。民主主義と普遍的価値を掲げてきたからこそ米国は超大国たり得たが、トランプはそれを愚行とみなす。ベネズエラ急襲は、その誤りを示す前兆だと同誌は締めくくっている。

ドル建てステーブルコイン

11月6日号のThe Economist誌からデジタルドルに関する記事です。

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曰く、トランプ政権はドル建てステーブルコインを通じてドル圏拡大を目指し、他国のドル化を促す方針に転じたが、英中銀やECBはデジタル・ドル化による金融不安を警戒しているとのこと。

ドル化は短期的に米国の調達コストを下げる一方で、各国の金融主権を奪い、危機時の流動性供給を困難にするなど構造的リスクを伴う。米国はドル覇権に依存した放漫財政を続けており、安易なドル化推進よりも財政健全化によって通貨への信認を高めることが最善策という同誌の指摘です。

 

 

政策リスク・規制のヘッドライン感応度についてやや懸念が残りました。ドル化推進→慎重姿勢への政策振れは、フィンテック/クリプト関連・クロスボーダー決済のヘッドラインに直結します。規制の方向(準備資産の厳格化、顧客資産分別、発行者監督)が収益モデルを左右するため、関連銘柄は政策発言・法案トラッキングが重要になってくる局面でしょう。

Golden Dome 構想が招くもの

11月6日号の The Economist 誌からトランプ大統領が提唱する Golden Dome ミサイル防衛構想が、現状では目的も設計思想も不明瞭であり、過剰な軍拡や莫大な財政負担を招く恐れがあると警告する記事をご紹介します。 

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曰く、

  • トランプ氏はアメリカ版 Iron Dome を建設すると表明。後に名称は Golden Dome とされ、ドローンやミサイルから米国本土を防衛する構想と説明された。

  • しかし、実態は既存システム(アラスカ・カリフォルニアの迎撃ミサイル、Patriot防空システムなど)の寄せ集めに過ぎず、どの脅威レベルに対応するのか明示されていない。

  • 追加要素としては宇宙配備型迎撃ミサイル(Space-Based Interceptors, SBIs)の導入がある。これは低軌道衛星に搭載され、ミサイル発射直後を狙うという旧スターウォーズ計画(SDI)型の発想。

  • 問題は、構想の目標範囲が不明確なこと。

    • 対中国の巡航ミサイル無人機程度を想定するのか、

    • 北朝鮮の小規模核攻撃を防ぐのか、

    • それともロシア・中国の全面核攻撃をも防ぐ「絶対防衛」を狙うのか。

  • また、規模によって費用は天と地の差であること。

    • 小規模版:2,500億ドル/20年

    • 大規模版:3.6兆ドル超
      これは国防費を食い潰す規模であり、white elephant 化の懸念が指摘される。

  • 過剰防衛は逆に他国の核増強を促し、抑止の安定性を損なう。

  • 同誌は、防衛強化自体は正しいが、金メッキされたGolden Domeにしてはいけない “He should resist the temptation to gold-plate the Golden Dome.” と締めくくった。

複数の観点からこの記事は示唆的です。

 

まず、Lockheed Martin、Raytheon、Northrop Grumman などは Golden Dome 関連の恩恵を受ける可能性が高いが、計画の不透明性・財政負担リスク・政治的反発により、長期的には不確実性が増すことに繋がるという点です。テーマ投資としてのミサイル防衛ブームは短期サイクルにとどまる可能性も頭に入れておくべきかなと。

 

また、Space-Based Interceptors や 軌道上センサー網は、民間宇宙企業(例:SpaceX, Blue Origin 関連サプライヤーなど)への発注機会を生みます。すなわち、宇宙インフラ×防衛テクノロジーの融合領域は中長期で有望です。これらの領域は米中覇権争いのど真ん中でもあり、実に魅力的な投資対象となり得ると思います。(投資を推奨するものではありません。

 

もちろん 3.6 兆ドル規模の計画がインプリされれば、財政拡張→長期金利上昇→株式バリュエーション圧迫という構図も生じ得えます。防衛セクター以外にはネガティブに働く可能性があるため、ポートフォリオ全体でのバランス管理も必要です。

 

中国のクリーン電力革命が市場と地政学を変える

今週の The Economist 誌に、世界最大の製造国である中国が、太陽光・風力といった再生可能エネルギー(以下「クリーン電力」)を爆発的に拡大しており、それが市場構造・エネルギー・地政学を大きく変えつつある、という話が載っていました。

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曰く、

  • 中国は既に 2024 年末時点で太陽光発電設備容量が 887 GWに達し、欧州+米国合計のほぼ倍の能力を有している。さらに 2024 年には風力・太陽光合わせて 1,826 TWh の電力を生産。これは 600 発分の核兵器のエネルギー 5 倍に相当との比喩。

  • 中国の製造能力と国内で安価な電力を大量に確保できる体制が、クリーン電力を惑星規模で運用できる新しいタイプの超大国を形成しつつある。

  • 世界の多くの国々が脱炭素化に遅れている理由は手段が無いからだが、中国はその手段を提供している。つまり、廉価なクリーン電力設備を世界に輸出し、他国の脱炭素化を加速させている。これは認めざるを得ない。

  • 中国自身が国内で吻合しやすい目標設定をしており、国連気候変動枠組条約UNFCCC 下での約束を既に超過、また 2035 年までに再生可能電力設備を2倍以上にし、排出量も定量的に削減すると宣言している。

  • 中国が世界のクリーン電力輸出国として化石燃料輸出国を凌ぎつつあり、その経済的・地政学的な影響力も拡大。これまで経済と気候の利害にズレがあったが、中国の場合、クリーン電力拡大=自国の気候リスク低下+輸出収益増という形で一致している。

  • ただし懸念もある。中国は石炭火力を急速には手放しておらず、依然として供給側・市場設計・グリッド改革・炭素価格付けなどに課題を抱えている。また、単一政党・中央集権国家として、レアアースなどの重要資源供給を通じた依存関係を世界につくる可能性も、他国にとって安全保障上の懸念である。

  • 最終的に、クリーン電力はメーカーや供給国がスイッチを切る心配が少ない。オイルショックを生み出した、石油の蛇口を誰かが止めるかもしれないという旧式の化石燃料時代の不安は、ことクリーン電力にはあまり当てはまらない。

 

脱炭素を謳って自国経済活性化の手段に出来ること、他国からの石油に依存しない体制を作りつつも輸入するものから順に使うこと、国産エネルギーである石炭を継続的に使用すること、これらの観点からも中国のクリーン電力革命は強烈なインパクトを残しています。その中でも輸出戦略については、発展途上国市場で特に活動が活発です。

 

投資家目線では米市場においても、これを補完・反撃する技術・サービスを持つ企業(例えば、電力貯蔵、スマートグリッド、電力市場改革用ソフトウェアなど)を探すのが有効でしょう。つまり単なる発電設備よりも、展開・管理・効率化の技術に焦点が当たると考えられます。



パランティアは史上最も過大評価された企業かもしれない

8月16日号の The Economist 誌から Palantir(パランティア)という企業に関する記事です。

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要旨

  • パランティアの現状

    • データ分析ソフト企業で急成長中。2025年第2四半期売上は前年同期比48%増の10億ドル。

    • 成長率+利益率を足した「ルール・オブ・40」で94という高スコアを記録(業界トップクラス)。

  • 問題点:株価評価の異常な高さ

    • 時価総額は4,300億ドル、利益の600倍、売上倍率は約120。

    • これはドットコム期のCiscoNvidiaのピークを大きく上回る。

  • 過去の事例からの警告

    • 同様の高倍率を記録した企業は、その後1年でS&P500を大きく下回る傾向。

    • 持続的な高成長が必要で、わずかな成長鈍化やトラブルで株価急落のリスク。

  • 買う価値を生む条件

    • 現在の株価を正当化するには、売上を5.6倍にし、年率40%以上の成長を5年間維持する必要。

    • これはGoogleNvidia級の成長を前提としており、競合や市場変化の影響を受けやすい。

示唆

パランティアは、急成長と高い利益率を両立する稀有なソフトウェア企業であり、その競争優位はAIブームと米国防総省諜報機関向けの機密データ解析能力に支えられている。しかし、株価はすでに過去のバブル期を超える評価水準に達しており、現在の時価総額は利益の約600倍、売上倍率はおよそ120倍という歴史的な高さだ。これは、今後5年間にわたり年率40%超の成長を維持し、売上を5.6倍にするという、GoogleNvidiaといった歴史的成功企業に匹敵する未来を前提として初めて正当化される水準である。

 

問題は、この「未来」がすでに株価に完全に織り込まれている点だ。過去、同様の高評価に達した企業は、1年以内に市場平均を大きく下回る傾向があり、業績が堅調でもマルチプルの収縮だけで株価は急落した。特にパランティアは政府案件への依存度が高く、政権交代や予算削減、あるいは競合企業の台頭といった外部要因が成長に影響を与えるリスクがある。

 

したがって、現時点での新規投資は、短期的な好材料に乗る投機色の強い取引となりやすく、長期投資家にとっては成長の持続性と市場シェア拡大が確証されるまで待機する方が合理的だ。すでに保有している投資家は、一部利益確定やカバードコールによるプレミアム確保などで下落リスクに備えることが望ましい。逆に空売りを検討する場合も、AI関連のテーマ性による短期的な急騰リスクを踏まえ、厳格なリスク管理が不可欠となる。

 

総じて、パランティアは「最高の企業の未来像」を株価が先取りしてしまった典型的なケースであり、過去のCiscoやMicroStrategyのように、将来の警告事例となる可能性を否定できない。現状は守備的スタンスを取り、実際の業績が異例の成長ペースを数年維持できると確認されてから評価を見直す方が賢明である。

 

AI使用と思考力低下

7月19日号の The Economist 誌から AI 関連の記事です。

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要旨

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究によると、AI(ChatGPT)を使ってエッセイを書く学生は、創造性や注意力に関わる脳の活動が低下し、自分で書いた文章の内容すら正確に思い出せない傾向があった。他の研究でも、AIを多用する人ほど批判的思考力が低いという傾向が見られている。

こうした研究は、AIが短期的には効率を高める一方で、長期的には創造性や思考力を損なう「認知的負債」を生む可能性を示唆している。AIによる「認知の肩代わり(cognitive offloading)」が進みすぎると、脳は楽な選択を好むようになり、批判的思考を避ける悪循環が生まれる。

企業はAI導入による生産性向上を期待するが、それが創造力や競争力の低下を招く懸念もある。たとえば、AIの提案に触れた人は、そうでない人よりも創造的な発想が少ないことが示された。

対策として、AIを「少し頼りないアシスタント」と位置づけて使ったり、問いを段階的に与えて思考プロセスを促す方法が提案されている。しかし、実際にそれらが浸透するかは不透明で、多くの人は強制的な介入を嫌がる傾向にある。

AIが人の知性を本当に損なうのか、今後の研究と社会的な判断が求められている。

 


示唆

多くの企業はAIを導入することで業務効率やコスト削減を目指しているが、従業員の思考力・創造力の低下という“長期的な損失”が懸念される。特に、コンサル、マーケティング、エンタメなど創造性と批判的思考が競争優位の源泉となる産業では、AI依存が逆にブランド価値や人材力を損なうリスクがある。

 

AIを活用しながらも、人間の思考能力を意図的に鍛える取り組み(例:ステップごとのプロンプト設計、強制的な熟考タイムの導入)を取る企業の方が、中長期的に人材力を維持し、競争優位を保てる可能性が高い。よって、AI導入を「全面自動化」と捉える企業より、人間中心のAI設計(Human-in-the-loop)を重視する企業への投資が相対的に魅力的。

 

生成AIベンダー(OpenAI、MicrosoftGoogleなど)も、ただの応答型AIではなく、「考えさせるAI」=思考を促すAI設計(Thinking Assistant)への進化が競争軸となる可能性がある。 したがって、プロンプト支援やコーチング機能、学習支援型AIなど「教育や思考促進に特化したAI分野」が今後の成長テーマになり得る。

 

単なる効率化ではなく、「人間の能力を高めるAI」を提供・活用できる企業に注目すべき。生成AIバブルの次は「知的補助インフラ」としてのAI活用が本格化するだろう。