英国 The Economist 誌を読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economist を読んだ感想を書きます

TSMC 熊本工場とアリゾナ工場の対照的な状況

The Economist の 2 月 24 日号から TSMC の日米で稼働予定の新工場についての記事が載っていましたのでご紹介します。

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曰く、TSMC のチップ製造工場は日本の熊本県と米国のアリゾナ州で稼働予定ですが、双方の進捗具合には大きな差があるとのこと。

 

同誌はこの違いとして、労働者(組合の影響が強く許認可に時間がかかったアリゾナ州)、パートナーの座組(デンソートヨタソニーなどを含む熊本県TSMC が 1990 年代以来初めて単独で行うアリゾナ州)、そして政府補助金(既に TSMC は日本政府からの補助金を受領済みな一方で米国政府からの補助金は審査が継続中)を挙げています。

 

ただし、チップ自体の性能はアリゾナ工場で製造されるものの方が最新のようです。

 

少し話題が逸れますが、個人的には熊本の経済、特に GDP が加速的に伸びることが予想され、人口動態から考える東京一極集中、あるいは首都圏集中が謳われる中での地方都市の期待の星として今後目が離せないと考えております。今後、同誌の中で熊本がモデルケースとして取り上げられるようになるのではないかと予想しながら、The Economist を読み続けたいです。

日本人男性のアイデンティティ危機

The Economist 誌の 2 月 24 日号に日本人男性全般についての記事が載っていました。

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曰く、近年日本においても女性の待遇・処遇の改善が見られるが、その結果女性の労働者増加並びに婚姻率の低下を招く一方で、社会的・文化的変容のペースは遅く、日本人男性は引き続き「伝統的な男性像」を求められるため G7 でも最悪の自殺率に繋がる状況にある、とのこと。

 

とある男性の例をとって説明される、猛烈サラリーマン+専業主婦、という戦後社会的なモデルケースとなった家族像には、定年後に「濡れ落ち葉」(《濡れた落ち葉が地面に貼り付いて取れないさまから》仕事も趣味も仲間もなく、妻に頼りきって離れようとしない定年退職後の男)と呼ばれる悲しい状況も付帯して説明されています。

 

私個人の見える範囲において、男性用のホットラインサービス等の拡充もさることながら、それでも男性の産休育休取得や家庭での家事分担など、職場で可能な対処法をインプリしている若者世代は少なくありません。お見合い婚がほぼ消え、結婚相談所という混沌で出会いが進捗する時代においては、結婚を単純なメリットデメリットで判断するようになるのでしょうから、日本人男性のアイデンティティ危機というよりも、日本の婚姻関係の危機、という話ではないかなと思っています。

 

トランプ前大統領再選シナリオにおける NATO

2月17日号の The Economist 誌社説から、欧州各国に対して NATO からアメリカが撤退したシナリオも見据えた再軍備を促す記事を紹介します。

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同誌はアメリカの NATO 撤退を補うものは何もないとしつつも、欧州各国の迅速な再軍備が持つ 3 つの重要な目的を示しています。曰く、その 3 つの目的は、ヨーロッパのウクライナ支援能力とロシア抑止力の強化、トランプ氏に NATOアメリカにとっての価値を証明、アメリカが同盟国を見捨てた場合のヘッジ、とのこと。

 

アメリカの支援が不確実な状況の中でヨーロッパが直面する安全保障上の課題に対処するため、迅速な再軍備がいかに重要であるかを強調していますが、それは、地域の安定を保つだけでなく、NATOの価値を再確認し、将来の不確実性に備えるための手段として位置づけられています。

要すれば、トランプ前大統領の方針がめちゃくちゃ効いている、ということではないでしょうか。同誌が言う通りフリーライダーしてきた欧州民主主義の(特に)左派には厳しい現実かもしれず、その対応策が軍拡というのも皮肉的に映るのは私個人だけではないと思います。この件は、数字も雄弁に語ります。

 

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ポーランドギリシャ地政学的な位置付けからも軍事費拠出の必要がある国で、自分事として捉えていると言えます。一方で、GDP 比で言えばドイツが問題であることは明らかです。

 

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アメリカ大統領選に向けて欧州側でどのような動きがあるのか気になりますし、記事の中でも触れられている「アメリカ抜きでの核の傘の有用性」についてはフランスとイギリスも真剣に考えていかなければならない問題でしょう。ナイーブにバイデン大統領の再選に期待するのも愚の骨頂ですから、同誌の主張は的を射ていると思います。

なぜイランは脅しに屈しないのか

2月10日の The Economist 誌からイラン関連の記事を紹介します。

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曰く、イランが米国の脅しに屈しない理由を中東各国に点在するプロキシ勢力に加えてロシアと中国のサポートによるものとしています。

 

イラク戦争によって疲弊していた 1988 年との違いはイラン自体の体力が残っている点。これはまさに Hamas、Hizbullah、Houthi、シリア、イラクといったプロキシとなって戦争を実行している武装勢力が中東に点在していることも背景にあるでしょう。

 

また、ロシアと中国はいずれも米国(及び西側諸国)から目の敵にされており、イランをサポートする理由も事欠きません。加えて、米国自体もイランを直接攻撃する意図がないので、イランもプロキシを通じた戦いに終始しています。

 

同誌は、イランは中東からの米軍排除を目的にプロキシを通じた長期戦を戦っており、西側諸国はイランに(特に米国が)本土攻撃も辞さない構えであることを示す必要がある、と締めくくっています。実際には上述の通り、米国もイランを直接攻撃することは想定していないことから、現実的ではないのですが。

 

Iran's ayatollahs play the Middle East's most dangerous game

立憲民主党党首インタビュー

2月10日号の The Economist 誌には立憲民主党の泉党首のインタビューが載っていました。

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The Economist 誌で日本の野党党首のインタビューが単独記事となるのは珍しい気もしましたが、曰く、自民党が政治とカネの問題で性懲りもなく叩かれている中で、マイナス金利政策継続中にリセッション入りした経済や人口構造問題も含めて、自民党執行部の古い価値観に問題の原因を寄せています。

 

立憲民主党は 2021 年の党首選挙で交代した泉党首が 49 歳で引っ張っており、若返りをアピールしているものの、旧民主党時代の粗末な政権運営、特に 2011 年の東日本大震災対応による悪評を覆せずにいるのも実態でした。そんな中、泉党首からは原子力発電所の再稼働や防衛費増加などの保守的な政策が口にされるなど、左派系への対処も含めながらの執行に期待できるとの同誌見立てです。

 

個人的には、エネルギー価格の上昇と円安のダブルパンチによって、エネルギー政策関連での左派の限界が可視化されただけではないかと思いますが、(いくら人材が豊富とは言え)問題続きの自民党へ正しくプレッシャーを掛ける必要があるとも思いますので、このように The Economist 誌のような媒体への働きかけも継続してほしいです。

 

世論調査の正確性

The Economist 誌の 2 月 10 日号に興味深い記事が載っていました。www.economist.com

 

曰く、米大統領選の世論調査の結果はトランプ前大統領優位と出ているが、世論調査の正確性を考慮すると両者にそれほど差はない、とのこと。

 

 

私個人的にも、各種報道からバイデン大統領の信任率が低く、トランプ前大統領が(それなりの差で)リードしている状況と理解していましたが、世論調査そのものの質までチェックしておりませんでした。ですので、この記事は目から鱗が落ちる内容でした。

 

ただ、同誌は FiveThirtyEight のカテゴリを使用しており、これは過去の正確性をベースにしたランキングでしょう。即ち、前回までの結果が正確だったからと言って必ずしも今回も正確とは限らないという点には注意が必要だと思います。もちろん選挙は水物、結果は蓋を開けてみないと分からないのですが。

共和党はプーチンをサポートしているのか?

The Economist 誌の 2 月 10 日号の社説は少し刺激的でした。www.economist.com

曰く、ウクライナへの支援と南部国境警護問題(移民対策問題)のパッケージ案が否決されたことを受けて、共和党は政争に従事するあまりロシアを助ける事になっているとのこと。同誌は移民対策問題を来たる大統領選挙の争点の一つに据えようとするトランプ前大統領の影響力によって、共和党が求めてきた移民対策(政党間妥協)案を自ら否決したことは国際社会におけるウクライナ支援にも背く愚行であると批判しています。

 

他方、移民対策問題そのものは米国内でテキサス州を中心に非常に大きな問題になっている状況です。これに鑑みると、パッケージディールのような形で承認されるべき問題なのかというと、私個人的には微妙ではないかなと思います。ただ、同誌が指摘する通り、移民問題の解決を先送る形にしているのは事実でしょう。

 

しかし、これも米国国内でのやむを得ない事情があるとみるほうがバランスが取れているようにも感じます。ましてや、プーチンをサポートする結果になるというのはまた別の観点から論理が飛躍しているように感じます。特に、22年のロシアによるウクライナ侵攻が開始された時点からは国際情勢も変化しており、Uncle Sam の優先順位付けは難しい舵取りが求められる重責ではないでしょうか。従って、秋の大統領選挙で決着とする、というスタンスを取る気持ちも分からなくはないですし、バランスが取れているように感じるわけです。

 

いずれにしても国際社会における米国の立ち位置を考えると益々大統領選挙から目が離せません。