英国 The Economist 誌を読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economist を読んだ感想を書きます

地政学リスクの増加と海上輸送

1月13日号の The Economist 誌に地政学リスクの高まりを受けた海上輸送への影響について社説が載っていました。

www.economist.com

曰く、最近海上での無秩序が見られ始めていますが、これは経済的な悪影響に加えて深刻な結果を招きかねないと警鐘を鳴らしています。地政学リスクの高まり、気候変動、そして技術革新によるものと同誌は見ています。

 

海上での無秩序については、紅海での Houthi によるタンカーへの攻撃によってスエズ運河経由の海上輸送ルートに影響が出ていたり、ロシアのウクライナ侵攻以降の黒海の状況はボスポラス海峡経由ルートに影響、北海及びバルト海では天然ガスパイプラインの爆破事件や海底ケーブルの破壊事件などが起きています。また、中国海軍による太平洋での違法行為(特に、対台湾)は米国海軍の覇権への挑戦でしょう。これらは地政学的リスクの影響を受けているものです。

 

気候変動の影響という観点では、スエズ運河が干ばつによって水位が保てず通行量が減少したり、温暖化で氷河が溶ける北極海ルートの開拓/通行量増加も見られ始めています。また、技術革新による知識経済の発展はデータセンターの重要性に繋がり、データセンターを繋ぐ海底ケーブルは破壊工作の格好の標的になってしまっています。

 

気になるファクトとしては次の三点です。

  • Some 80% of trade by volume and 50% by value travels on a fleet of 105,000 container ships, tankers and freight vessels that ply the oceans day and night, taken for granted by the people whose livelihoods depend on them.

  • Today 62% of containers are carried by five Asian and European firms, 93% of ships are built by China, Japan and South Korea, and 86% are scrapped in Bangladesh, India or Pakistan. The US navy’s specialist role has been as the near-monopoly provider of security, using over 280 warships and 340,000 sailors.

  • And the West’s use of sanctions has triggered a smuggling boom: 10% of all tankers are part of an anarchic “dark fleet” operating outside mainstream laws and finance—twice the share of 18 months ago.

 

国際統合を進めすぎた結果として、ある特定国への依存度が高まってしまっている状況は、西側諸国が中国やロシアをサプライチェーンから締め出す必要性に繋がってしまい、投資不足の業界は簡単には追いつけないでしょう。同じく、対ロシアを中心とする欧米諸国の経済制裁の結果、ならず者船団が増えてしまい、かえって海上の無秩序を助長しているようにも見えます。今年は各国の選挙イヤーなので国内政治機運が高まり、海上輸送ルートの再編成あるいは海軍への支出を各国ふやすようなことにも繋がっていくのかもしれません。

 

 

余談ですが、 ”Mayday! War stalks the world's oceans” という当初タイトルから、 ”America fights back” に変更となっていました。ちなみに紙面版では "Who will rule the waves?" というタイトルで載っているみたいです。

 

黒海ルートの穀物輸出に暗雲 ロシアが合意延長に難色 - 日本経済新聞