英国 The Economist 誌を読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economist を読んだ感想を書きます

オーストラリア特集

10月26日号の The Economist 誌の Special Report はオーストラリアに関して計8記事が載っていました。そして Leaders にはその総まとめ記事が載っています。 

www.economist.com

曰く、オーストラリアは多くの先進国が抱える課題である①年金問題②医療費問題③移民問題すべてに上手く対処してきているだけでなく、四半世紀以上経済停滞を経験することなく成長し続けている世界でも稀有な先進国であるとの評です。そして、年金問題に関して政府負担を減らして労働者の自己解決を促す提案を左派からしており、移民の受入政策を推進したのは右派である、という事実から各国が現在直面する問題への解決方法にも多角的な示唆があるとしています。

 

しかし、将来はバラ色一色というわけではありません。気候変動による降雨不足が招く干ばつ問題やグレートバリアリーフの破壊問題(オーストラリアは石炭資源に恵まれた国家でありCO2排出量も多い)、政治の不安定さによる一貫した政策の不在という極めて先進国共通の課題も抱えています。加えて、先住民であるアボリジニの処遇についても合意形成が出来ているとは言えず、国内の不安要素も徐々に高まってきています。

 

 

また、オーストラリアは外交的な結びつきの強い同盟国である米国と、経済的な結びつきが非常に強い中国との関係に思案している状態で、米中関係の影響を受けるという点

で日本とも似ていますが、資源大国で広大な国土を誇る大陸国と、資源に恵まれない島国との比較は簡単にはいかないでしょう。地政学的に日本にとって重要なパートナーでありますので、今後動きをみていきたいと思います。

 

中東のフライト事情

10月20日号の The Economist 誌に中東でのフライト事情について興味深い記事が載っています。

www.economist.com

曰く、中東各国の複雑な状況を反映して、各国の航空会社は最短距離ルートを使用できず迂回ルートでの航空を余儀なくされているとのこと。たとえば、サウジアラビア等に断交されているカタールはサウジの領空内を通行することができないため、ベイルート便をイラン・トルコ経由で航行しなければならなず、約1,000 kmの追加距離が発生しているそうです。

 

航空会社側は迂回ルートによって発生するコストの処理(顧客に転嫁するのか自社で吸収するのか)の問題が発生し、旅行者側には追加のフライト時間が発生します。どちらが重たいか、と言えば確実に航空会社側でしょう。(フライト時間増による顧客減も織り込む必要がありそうです)

 

とはいえ、それでも移動手段が確保されているという点は消費者側には好都合です。尤も、MEA のように通常フライトを継続している航空会社もありますが、(迂回しない分だけ)リスクが残ってしまいますが。

 

サプライチェーンの地政学

10月12日号の The Economist 誌に中国が電子機器製造業のサプライチェーンを掌握している、という興味深い記事が出ています。

www.economist.com

曰く、Apple(の iPhone )をはじめとするハイテク時代の根幹をなす携帯電話の50%以上が中国で作られているとのこと。実際には組み立て作業であり、かつては労働コストの低さから選ばれていた中国ですが、周辺のライバル国(ベトナム等)への対応策として、工場は高度に自動化されており、依然として競争力を担保し続けています。

 

このサプライチェーン上の掌握は、地政学的な意味合いを帯びており、米国をはじめとする諸国の脅威になっています。紙面を賑わせる米国の対中関税引き上げの大きな理由の一つであり、それを格好の都合として中国から生産設備を引き上げる国も出てきています(日本企業では三菱電機が挙げられています)。潜在的な脅威を示す好例として「中国は携帯電話の組み立て作業の中で、スパイ目的でチップを埋め込んでいる」という事実のレポートもあるそうです(Apple 等の企業は即座に否定していますが、もっともらしいレポートであるという意見も)。

 

経済合理性だけを追求すると、地政学的な面で後れを取ってしまうという好例ですね。加えて中国はインフラビジネスに地政学的戦略から注力していて、実際に貸し付けの返済が見通せなくなったスリランカから港を取り上げており、巷では軍港にするのではないかという懸念も出ています。引き続き目の離せない分野です。

 

 

ギグエコノミー従事者に何をするべきなのか

The Economist 誌の10月6日号の Leaders にギグエコノミーについての記事が載っています。

www.economist.com

 

ギグエコノミーはインターネットを通じて単発の仕事を受注する働き方、あるいはそれによって立つ経済形態です。曰く、企業が正社員に払うべき福祉等の費用を削減することに寄与していることから、ギグエコノミーは完璧ではなく、いかに近代の資本主義が失敗しているかを示す有力な象徴であると主張しています。

 

とはいえ、ギグエコノミーが消費者にもたらす恩恵は計り知れないため、Uber などの企業側に努力が必要だとしています。具体的には、市場のメカニズムに頼ることが必要であるとしています。実際に Amazon が社員の最低賃金アメリカとイギリスで引き上げるなど失業率は低い状態なので、ギグエコノミーを提供するプラットフォームは社員の健康保険を付与するなどの手を打つべきとしています。(もしくはギグエコノミー従事者を対象とした保険/年金サービスを充実させることを主張していますが、本質的ではないように思います)

 

僕はよく Uber を利用します。運転手と会話すると、自分が想像しているよりも多くの額を Uber が中抜きしていることがわかります。それでも、タクシーの運転手とタクシー会社のそれと比べると運転手側にもメリットがあり、消費者側のメリットは計り知れないので、これは今後も続いていくと思います。是正するためには、正しい規制を政府が行わなければいけないということですが、どこまで介入するべきなのでしょうか。

 

ゴミは地球の頭痛の種

9月29日号の The Economist 誌の Leaders にはゴミに関する衝撃的な記事が載っています。

www.economist.com

 

曰く、2016年の1年間で20億トンのゴミが捨てられているそうで、これは平均すると人間一人当たり毎日740gのゴミを捨てていることになるそうです。肉の塊をイメージするとかなりの質量感だな、と改めて感じました。

 

また、これらのゴミは公衆衛生への影響も大きく、下痢、呼吸器感染症、神経学的疾患の原因になっており、貧国はなお良質なゴミ処理場を持てないため、その被害が拡大の一途を辿ってしまっている状況とのこと。

 

ゴミの問題は、核のゴミの問題にもつながると思っていますが、温暖化の問題にもつながっているとも知りませんでした。ゴミ処理産業からの温室効果ガス排出量は極めて大きくなっていくそうです。CO2マネジメントにビジネスチャンスがあるように、ごみ処理に関するビジネスもまたしかりではないかと。少し掘り下げてもいいテーマかもしれない、と思いました。

 

アメリカの対中国関税はある程度続きそうだ

The Economist 誌の9月22日号の Leaders に、米中貿易関係の記事が載っています。

 

www.economist.com

曰く、米国の新しい対中関税はアメリカの加熱する経済を沈静化させることにはならなそうだ、と。

 

中国の重商主義(中国政府が国営企業補助金を与えて不正な競争を助長していること)に対抗するという正義を持つ米国は、同時に対中貿易赤字を解消したいという別の目的を持っているため、米中貿易戦争を長引かせる理由があります。また、米国はサプライチェーンをの米国回帰を求めている上に、中国を戦略的な競争相手と認識しているため、新関税が中国の経済に悪影響を及ぼす様子を楽しみにしている節もあります。

 

ただ、貿易赤字と米国産業の衰退は同じ問題ではありません。新関税は中国との二国間貿易赤字の解消に一役買うかもしれませんが、全体の貿易赤字の解消には国内の景気後退に向き合う必要があると思います。

生産設備が戻ってきたとしても、オートメーションにより米国国内の雇用数はそれほど増えないでしょう。また、低スキルの仕事はベトナムような低コストの国に向かうでしょう。

 

トランプ大統領のその普段の言動からあまり正しく認識されていませんが、中国側がアンフェアな貿易スキームで戦ってきているので米国側も妥当な対応を取っているように見えます。いずれにしても、中国側も報復関税策を発表しており、(完全に他人事ですが)今後の展開が楽しみです。

 

 

次のジャック・マーは現れないだろう

The Economist 誌の9月15日号に Alibaba 会長職を退任することを発表したジャック・マーに関する記事が載っています。

https://www.economist.com/leaders/2018/09/15/china-will-struggle-to-produce-another-jack-ma

 

曰く、中国経済の構造的変化(ジャック・マーが Alibaba を創設した1999年ほどの経済成長は見込まれない)と、中国政府の変化(プライベートセクターが大きくなりすぎることを嫌うこと)を考慮すると、ジャック・マーに比肩するビジネス界のリーダーは今後現れることはほぼ確実にないとのこと。特に大きな障壁になるのは共産党の姿勢(IT企業への規制を強化中)であると見ているようです。

 

マー氏は「好きだけど結婚するつもりはない」という言葉で中国政府との距離感を示しており、今回の会長職から退くことも大きくなりすぎた Alibaba と政府との関係も考慮しての決断であるでしょう。だとすれば非常に早い決断であり、ベストタイミングだと思います。

 

今後は、同氏のスタート地点である教育に注力していくのではないかと考えます。この分野は『GAFA』の著者曰く Apple が世界を変えられる分野ですが、最大の人口を誇る中国国内では Alibaba がその役を担っていくことになりそうです。残念ながら、中国ビジネス界において真の意味での彼の後継者は現れなさそうですが。