英国 The Economist 誌を読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economist を読んだ感想を書きます

日産・三菱・ルノーの未来

11月22日号の The Economist 誌の気になった記事はやはりこの話題です。
 
日産がこのタイミングで発表した理由について、本邦の新法案を利用する意図があるのではないか、や、日産社内の反ゴーン派によるものではないか、と疑念を残す形で記載しているように読めますが、ここにも文化的な差異があることを示唆しており、ゴーン氏がパージされることについては「正当化されてもしかたがないのでは」との見方も示しています。
 
同誌は、ゴーン氏の代わりになる人材を三社が見つけ出すことは厳しいとしています。そして、もしアライアンスが崩壊するようなことになれば、ルノーも日産も規模の面から厳しい状況に置かれるとの見方です。同アライアンスが持つ潜在的な力は自動車業界を変え得る力もあるので、その不確実性が高まることは、良いことではないのでしょう。ただし、実際の帰結がどうなるかについては、現状わかりません。

日本の少子高齢化を解決できるのは

The Economist 誌の11月17日号に、日本の少子高齢化に関する記事が二本載っていました。そのうちの一つを紹介します。

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まずは事実を淡々と並べているのですが、これが殊の外衝撃的な数字でした。人口は毎年40万人減(!)、平均寿命が84歳(世界一)、65歳以上が人口の28%、百寿の方が69,785人。GDPの250%の公債、労働力不足(2030年には58百万人)。どれも実際にファクトとして認識すると、手の付けられない規模にも感じます。

 

同誌曰く、移民が解決策の一つだろう、と触れます。でもこれは、分かり切ってますよね。次が、定年の上限をあげること。とはいえ日本は既に65歳以上の労働者比率が世界各国と比較しても高い状態です。それでも年金の支給タイミングを遅らせることができるので、一石二鳥で安倍首相も進めていくだろう、とのこと。

 

それでも移民が必要である、というのが The Economist 誌の締め方でした。文化的な背景・違いもありますが、同じ島国であるイギリスがどういう政策を取ってきていて、その結果どうなっているのかということを考えると、非常に皮肉的なコメントだな、と感じました。

ゲーム規制が市場を殺すのか

11月8日号の The Economist 誌にゲームに関する記事が載っています。

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曰く、中国でのゲーム規制が Tencent 株 28 %株価下落を招いたように、日韓でも同様の規制が通る可能性があり、業界は対応を迫られているとのこと。

 

娯楽産業としてのゲームはその幅を広げており、ついには e-Sports としてスポーツ産業のパイも食べようとしています。対応を迫られている対面業界からのプレッシャーあるいはロビイストの活動があるのではないかと想像します。スポーツ業界、あるいは映画や玩具業界、場合によっては薬物業界などでしょうか。

 

とはいえ、ゲームの中毒性や射幸性は社会問題になっていますから、その対応は不可避でしょう。しばらくは形式上でも規制に従うような姿勢を見せない限り、業界全体として沈む可能性があります。ここは適切な判断ができる政治家の登場を待つ(あるいは送り込む)ことが重要ではないでしょうか。

 

HBO の Netflix への反撃が始まる…

11月1日号の The Economist 誌 に Netflix 対 HBO (AT&T) に関する興味深い記事が載っています。HBO (Home Box Office) はアメリカの有料 TV 配信企業であり WarnerMedia の傘下であり、2012年に Netflix は 「我々の目標は HBO が Netflix になる前に HBO になることである」と宣言し実際に打ち勝ちましたが、HBO の反撃が待っている、という記事です。

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曰く、HBO の親会社である Time WarnerAT&T が 1090 億ドルで買収したことにより、同社の新メディア WarnerMedia の主戦力として HBO が Netflix に対する反撃を始めるだろうとみています。AT&TFacebookGoogleAmazonNetflix に対して戦う姿勢を見せており、その一翼を担う HBO には一定の予算がつくのではないか、と同紙は見ています。

 

HBO は購読者数で Netflix に大きな差をつけられていないものの、彼らの購読者は直接ではないため顧客のデータにアクセスすることができないという問題を抱えています。また、個人データに依って大量のコンテンツを用意している Netflix と異なり、HBO は数少ない大ヒット作品によって購読者数を増やしており、構造的には既に確立したブランドに傷をつけないような運営が求められています。

 

 

逆転の材料としては、WarnerMedia が持つ大人気映画やテレビドラマが HBO に加わることです。Netflixウォルマートで、HBO はティファニーであるとする AT&T の戦略に基づいて、HBO がこれからどこまでシェアを取り返していくのか、注目に値すると思います。 

オーストラリア特集

10月26日号の The Economist 誌の Special Report はオーストラリアに関して計8記事が載っていました。そして Leaders にはその総まとめ記事が載っています。 

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曰く、オーストラリアは多くの先進国が抱える課題である①年金問題②医療費問題③移民問題すべてに上手く対処してきているだけでなく、四半世紀以上経済停滞を経験することなく成長し続けている世界でも稀有な先進国であるとの評です。そして、年金問題に関して政府負担を減らして労働者の自己解決を促す提案を左派からしており、移民の受入政策を推進したのは右派である、という事実から各国が現在直面する問題への解決方法にも多角的な示唆があるとしています。

 

しかし、将来はバラ色一色というわけではありません。気候変動による降雨不足が招く干ばつ問題やグレートバリアリーフの破壊問題(オーストラリアは石炭資源に恵まれた国家でありCO2排出量も多い)、政治の不安定さによる一貫した政策の不在という極めて先進国共通の課題も抱えています。加えて、先住民であるアボリジニの処遇についても合意形成が出来ているとは言えず、国内の不安要素も徐々に高まってきています。

 

 

また、オーストラリアは外交的な結びつきの強い同盟国である米国と、経済的な結びつきが非常に強い中国との関係に思案している状態で、米中関係の影響を受けるという点

で日本とも似ていますが、資源大国で広大な国土を誇る大陸国と、資源に恵まれない島国との比較は簡単にはいかないでしょう。地政学的に日本にとって重要なパートナーでありますので、今後動きをみていきたいと思います。

 

中東のフライト事情

10月20日号の The Economist 誌に中東でのフライト事情について興味深い記事が載っています。

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曰く、中東各国の複雑な状況を反映して、各国の航空会社は最短距離ルートを使用できず迂回ルートでの航空を余儀なくされているとのこと。たとえば、サウジアラビア等に断交されているカタールはサウジの領空内を通行することができないため、ベイルート便をイラン・トルコ経由で航行しなければならなず、約1,000 kmの追加距離が発生しているそうです。

 

航空会社側は迂回ルートによって発生するコストの処理(顧客に転嫁するのか自社で吸収するのか)の問題が発生し、旅行者側には追加のフライト時間が発生します。どちらが重たいか、と言えば確実に航空会社側でしょう。(フライト時間増による顧客減も織り込む必要がありそうです)

 

とはいえ、それでも移動手段が確保されているという点は消費者側には好都合です。尤も、MEA のように通常フライトを継続している航空会社もありますが、(迂回しない分だけ)リスクが残ってしまいますが。

 

サプライチェーンの地政学

10月12日号の The Economist 誌に中国が電子機器製造業のサプライチェーンを掌握している、という興味深い記事が出ています。

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曰く、Apple(の iPhone )をはじめとするハイテク時代の根幹をなす携帯電話の50%以上が中国で作られているとのこと。実際には組み立て作業であり、かつては労働コストの低さから選ばれていた中国ですが、周辺のライバル国(ベトナム等)への対応策として、工場は高度に自動化されており、依然として競争力を担保し続けています。

 

このサプライチェーン上の掌握は、地政学的な意味合いを帯びており、米国をはじめとする諸国の脅威になっています。紙面を賑わせる米国の対中関税引き上げの大きな理由の一つであり、それを格好の都合として中国から生産設備を引き上げる国も出てきています(日本企業では三菱電機が挙げられています)。潜在的な脅威を示す好例として「中国は携帯電話の組み立て作業の中で、スパイ目的でチップを埋め込んでいる」という事実のレポートもあるそうです(Apple 等の企業は即座に否定していますが、もっともらしいレポートであるという意見も)。

 

経済合理性だけを追求すると、地政学的な面で後れを取ってしまうという好例ですね。加えて中国はインフラビジネスに地政学的戦略から注力していて、実際に貸し付けの返済が見通せなくなったスリランカから港を取り上げており、巷では軍港にするのではないかという懸念も出ています。引き続き目の離せない分野です。