英国 The Economist 誌を読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economist を読んだ感想を書きます

姓名?名姓?

新年最初の The Economist 誌 1 月 4 日号から、今年から始まる(?)日本人の名前の英語表記変更に関わる記事が載っていました。

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苗字→名前の順番である日本人の名前を明治維新西洋文化取り入れの中で西欧風の名前表記である名前→苗字の順番にした、という話が森有礼福沢諭吉を引用して触れられています。*1。そしてこの度、それを苗字→名前の順番に変えるというものです。

 

その説明を同誌は「安倍政権の伝統回帰的」に帰するものであるかのように行っているだけでなく、上述の名前→苗字の順番が隣国である中国韓国との関係悪化(植民地支配を含め)につながった一つのステップだとみています。

 

実務的には、英語が母語の国で働いている身として従来の名前→苗字の順番で慣れてきているので、今更大々的に説明して変えるのも面倒だなと思いますし、同様に大企業のビジネスマンたちも取引先などへの説明が大変になるのではないか、と邪推してしまいます。

 

*1:それもご丁寧に苗字→名前の順番 (Mori Arinori)で表記されている

期待外れのグリーンラッシュ

The Econmist 誌の12月21日号からカナダにおける娯楽用大麻に関する記事です。

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曰く、世界で二例目となるカナダで合法化された娯楽用大麻の利用ですが、関連行政上の手続きの遅れによって、実際の流通および売上高は期待外れのものに終わっているとのこと。それにより、大麻関連企業の株価も軒並み下落して2019年を終えている様子。

 

オーストラリアにおいても同様の動きがみられているものの、やはり許認可の進みは遅く、関連企業の株価も下落しています。私も昨年保有していた大麻関連企業株でかなりの売却益を出せましたが、急落した株価によって損切する結果となりました(なお、損切後に株価は80%以下まで毀損しましたので、損切の有効性を改めて実感した次第です)。

 

逆に言えば、許認可や関連手続きさえきちんと整えば伸びることになる市場なので、今が仕入の時期なのかもしれません。尤も、それが危ういところなのですが。

 

株式投資を推奨するものではありません。投資は自己責任です。

カンガルーと干ばつ

The Economist 誌の12月21日号からオーストラリアの干ばつに関する記事を紹介します。

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曰く、オーストラリアには人口の2倍の約4,000万頭のカンガルーがいるとされていますが、その数は近年減少傾向にあるとのこと(主な理由は近年深刻な被害をもたらしている干ばつ)。なお、同国ではカンガルーの商業利用(主に食肉と毛皮での利用)が認められており、その市場規模は年間約170億円(250百万豪ドル)にも上るそうです。

 

この記事ではカンガルーを家畜として扱うことがカンガルーの頭数管理および動物福祉の観点から良いのではないかと主張しています。畜産農家はカンガルーを牛や羊の(水や食料面での)競争相手とみなしていますが、一日当たり1.5リットル程度の水消費量であるカンガルーは牛や羊の水消費量から考えれば誤差の範囲であり、牛や羊のゲップから出る温室効果ガス(メタン)をカンガルーは放出しませんし、何よりカンガルー肉は牛肉や羊肉と比べて脂肪が少なくタンパク質量の面で優れていることを根拠に挙げています。

 

確かに景観を考えるとカンガルーが餓死あるいは渇死している状況を避けたいのはやまやまですが、国のシンボルであるカンガルーを肉食用に流通させるというのもオーストラリア人であれば避けたいことではないでしょうか。加えて栄養面で優れているかもしれませんが、牛肉やラムと比べるとカンガルー肉はそもそもおいしくありませんし、畜産業界が内包する環境問題を根本的に解決する手段でもないので、積極的に踏み出すことではないと現時点では考えています。

テクノロジー悲観主義はやりすぎ

The Economist 誌 12 月 21 日号の社説から、今年最後の記事紹介です。

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この記事では最新のテクノロジーが人々に残した不安の例がまとまって紹介されています。SNSのプライバシー侵害やプロパガンダ問題、ギグ・エコノミーの労働条件やライドシェアサービスによる交通量増加問題、若者のスマートフォン中毒、AI の普及による偏見の拡大や失業への不安増加、5G は米中貿易戦争の火種である上に、自動運転車は人間同様に死亡事故を起こす等。曰く、これらの問題によって人々はテクノロジーに対して悲観的になっているとのこと。

 

これを踏まえて同誌は NYT の1979年の記事を引用して「過去にも起こってきたこと」とした上で、創造破壊を解き放つことができる新しいテクノロジーが不安を生じさせることは極めて自然なことであるとしています。また、人々は新しいテクノロジーの欠点ばかりに注目するだけでなく、その利点については当然のことであると無視しており、テクノロジーに対して悲観的になりすぎであると主張しています。確かに、私にとってもスマートフォンのない生活はもはや考えられませんし、その生活を当然のものとしてとらえています。

 

最後に同誌の「新しいテクノロジー自体がどのように使われるかが重要である」という主張も的を得ていると思います。例示されている殺戮動画や生物兵器にも代表されますが、テクノロジーやプログラミングはプロキシ(代理人)です。それゆえ不安の根源はテクノロジーではなく、社会がテクノロジーの孕む問題に対する真正面から答える解決策を持ち合わせていないことにあるのかもしれません。

冬場の原油市場 - 不穏な供給見通し

12月18日号のThe Economist誌に原油市場の見通しについての記事が載っていました。

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曰く、アメリカの生産量動向とOPECの減産合意の趨勢が二大懸念点とのこと。特に後者のOPECの減産拡大については懐疑的な見方のようです。

 

この記事の焦点は供給側に置かれていますが、実際には需要側が重要だと思います。気候変動への対処によって長期的な需要は頭打ちあるいは減少となる可能性が高く、景気後退による需要減もジリジリと迫ってきています。

 

サウジアラビアにとって史上最大のIPOとなったアラムコを成功させる上でも(もちろん予算達成の観点からも)原油価格の維持が求められますが、道のりは平坦とはいかないようです。

データの地政学

The Economist 誌の11月8日号の中から TikTok に関する記事を取り上げます。

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曰く、TikTok はデータの地政学を変え得る存在であり既存のサービスにとって脅威になり得るとの論調です。TikTok は10代に人気の15秒動画のサービス(YouTubeステロイド版だと表現)で、アプリは過去12か月間に7.5億回以上DLされているとのこと。

 

FacebookYouTubeTwitter はどれも米国企業ですが、TikTok中国企業でありながら米国で人気を博しているサービスらしく、彼らが成功した背景には TwitterFacebook などでの大々的な広告によるものとの同誌分析です。

 

データの地政学、という言葉が出てきていますが、TikTok にユーザが流れれば流れるほど、米国から中国へのトラフィックが移るという話のようです。もう少し詳しく調べないと分からないですが、Facebook が真似できなかった編集ツールとNext to watchを決めるアルゴリズムは確かにゲームチェンジャーになるかもしれません。

米国 MBA の価値

今週のThe Economist のトップページに載っていた米国 MBA についての記事がとても興味深い内容でした。

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曰く、米国 MBA は欧州 MBA などに代表される 1 年制 MBA の勃興に伴って、HBS も Stanford も入学希望者数(特に海外からの留学生)が減少傾向にあるとのこと。確かに米国 MBA を卒業後に米国(あるいは米国企業)で働く希望を持っていない受験者が、高価な授業料と生活費を要する 2 年制の米国 MBA よりも、次に働く場所に近い欧州あるいはアジア MBA を選択することは合理的に見えます。

 

また、キャリアを犠牲にすることなく MBA 資格を取得できるオンライン MBA コースを提供する大学が増えてきたことも米国 MBA 受験者数の減少の理由とも言えるでしょう。米国側も授業料高騰問題は学卒含めた奨学ローン問題として社会問題化しており、資金援助について構造的な問題解決に向けた検討がなされている(ようです)。たとえば、職に就いてからの返済を認めるケースもあるらしい(が、まだまだメインストリームではなさそうです)。

 

教える内容も変化しつつあるようです。従来の Finance 101 から持続可能な資本主義とは何か?のような欧州 MBA 特有の哲学的な問いを必修科目に設定する大学もあれば、コーディングやデータアナリティクスを必須科目に設定する大学もあるとのこと。これらは変化の途上にあるようです。

 

個人的には、留学することの魅力はあるもののビジネススクール特有の「パリピ」感がどうも好きになれず、また大企業での雇われ能力を示すために MBA が必要という意見には 100% 同意するものの、高学歴だけど使えない人間が日本だけでなく世界中にいることに鑑み、やはりまずは経験を積める場所を今いる場所で探す、という選択肢を優先させたいと整理しました。人生100年時代に雇われ能力を示すという意味では、トップ MBA が娯楽的に提供している「EMBA」を15年後くらいに取れればいいと考えています。