英国 The Economist 誌を読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economist を読んだ感想を書きます

戦場のドローン

The Economist 誌の 2 月 10 日に戦場でのドローンついての社説が載っていました。

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曰く、ウクライナの戦地では、比較的廉価で入手可能なドローンによる攻撃によって、伝統的な戦場の武器(戦車やミサイル)が破壊されるケースも増え始めており、戦場のドローンの登場が戦争の仕方を変化させることになる、とのこと。大きくて破壊的な武器から小さく小回りの利くドローンへの変化は重要な点でしょう。

 

ドローンはラジコン的に人間の操作が必要なものから、テレビゲームのような操作で済むもの、そして人間の関与を殆んどあるいは一切必要としないものまで幅広く出ているため、今後の戦争は空中を埋め尽くしたドローンが自律的に攻撃タイミングを見極めて爆撃してくることも想定しないといけないと同誌は主張します。

 

特に西側諸国は、今後テロ組織や犯罪者がドローン攻撃を仕掛けてくることを念頭に置いて対策を打つべし、と結論付けています。ある種的を得ており、中東を中心に情勢が不安定な中、どのようなテロ的あるいは代理戦争的な衝突があるのか予測も付かない時代ですので、テクノロジーの進化を歓迎しつつ(AI 含めた)ロボットの進化によって余暇時間が増えた人間が取るアクションが「戦争」でないことを祈るばかりです。

 

Ukraine must innovate as war moves to static, attritional phase - army  chief | Reuters

 

スターリンクと地政学リスク

The Economist 誌の 2 月 3 日号からインターネット地政学潜在的な影響をもたらすスターリンクについての記事が載っています。

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曰く、イーロン・マスクが経営するスターリンクのような低軌道衛星によるインターネットアクセスは海底ケーブルによるインターネットの良い代替になり得るものの、決定権を有する(会社を保有する)資本家の意図によって潜在的地政学的リスクを孕んでいる、とのこと。

 

前段ではイーロン・マスクスターリンクジェフ・ベゾスのアマゾンが具体例として挙げられており、衛星の数はスターリンクが 既に 5,288 機(計画では 42,000 機!)、英国企業の OneWeb は既に約 650 機、アマゾンも 3,236 機を打ち上げる計画を有しているとか。また、ロシアによるウクライナ侵攻時にウクライナスターリンクを使用することでインターネットアクセスを担保した話にも触れています。

 

後段では、イーロン・マスクの一存によりウクライナがインターネットアクセスを失う可能性や、台湾有事が現実問題になったときに台湾にスターリンクを提供するのか、など想定できる地政学リスクに触れながら、誰がインターネットを所有しているのか、という哲学的な問題が地政学イシューになると締めくくっています。

 

個人的には、スターリンクによる衛星数の伸びが想像以上だったので調べてみるとかなりの勢いで伸ばしていることもわかり有益に感じました。完全にインフラ化しているインターネットがなくなった場合も想定しながら、シナリオ分析は進めないといけないということかもしれませんね。



岸田政権状況

The Economist の 2 月 3 日号に日本の政治状況についての記事が載っていました。
曰く、自民党の数十年ぶりの政治とカネ問題によって岸田首相は歴史的な不支持率(毎日新聞の79%を引用)に直面するも、野党が相変わらず足並みが揃えられないことから同誌としては政権交代の可能性は極めて低く自民党の基盤は安泰と見ています。一方で、岸田首相のリーダーシップそのものに対しては疑問符を投じており、9月の自民党総裁選での再選は厳しいものとしています。仮に再選しても、自民党による政策討論は難しいものになり、国会運営も不安定になるとの同誌の見立てです。
 
不適切な報告と派閥問題も相まって岸田総理の後継問題も難しい状況ですが、海外からの見立てとして清和会の影響力がそがれ、国防問題や保守的な政策(同性愛者の婚姻や移民政策)への緩和も有り得るといわれているのは面白いです。自由民主党の成り立ち、吉田茂鳩山一郎の政党が合同した 55 年体制、派閥解消に伴うさらなる細分化が起こってしまうようなケースは想定されるのでしょうか。
 
 

世界5カ国目の月面着陸達成

1月27日号の The Economist 誌に日本の月面着陸について書かれていました。

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曰く、日本の月面着陸成功は世界五カ国目の偉業であり、SLIM (Smart Lander for Investing Moon) と呼ばれる宇宙探査機の技術的な成功のデモンストレーションかつ今後に見える宇宙開発競争におけるアメリカ同盟国である日本の地政学的な重要性を示したものとのこと。

 

記事の中では中国が月の資源を独占する懸念があるというアメリカ側の見立ても紹介しており、昨今の米中デカップリング、地政学的なサプライチェーン再構築の動きの中で、改めて日本の戦略的重要性が見直される局面に来ていると捉えても良いかもしれません。

 

SLIM の太陽発電パネルに不具合があるようですが、新年幸先良い元気の出るニュースだと思います。

日本の既婚女性の社会復帰

The Economist 誌の1月20日号から日本の既婚女性の労働環境についての記事を紹介します。

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曰く、日本の既婚女性の労働参加状況は改善の一途を辿っており、2022 年には 25-39 歳の 80% が就業している状況のようです。

 

しかし、同誌は、家族関連法や税制度によって復帰を選択しない既婚女性もいることを指摘しています。これは日本政府だけでなく、日本企業も産休・育休の制度化だけでなく実運用を促進する企業文化醸成が求められており、社会全体として取り組む必要がある問題と主張しています。

 

たしかに男性育休取得者が増えてきているとはいえ少数派であることは事実でしょう。ただ、一方で、選択的専業主婦が減っている、すなわち賃金上昇のなきデフレが長く続いた構造的な問題もあると考えます。少子化対策は既婚女性が 3 人以上子どもを産むことが大切であることを考えれば、社会復帰しやすさに加えた社会的インセンティブがないと難しいのではないかと思う次第です。

地政学リスクの増加と海上輸送

1月13日号の The Economist 誌に地政学リスクの高まりを受けた海上輸送への影響について社説が載っていました。

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曰く、最近海上での無秩序が見られ始めていますが、これは経済的な悪影響に加えて深刻な結果を招きかねないと警鐘を鳴らしています。地政学リスクの高まり、気候変動、そして技術革新によるものと同誌は見ています。

 

海上での無秩序については、紅海での Houthi によるタンカーへの攻撃によってスエズ運河経由の海上輸送ルートに影響が出ていたり、ロシアのウクライナ侵攻以降の黒海の状況はボスポラス海峡経由ルートに影響、北海及びバルト海では天然ガスパイプラインの爆破事件や海底ケーブルの破壊事件などが起きています。また、中国海軍による太平洋での違法行為(特に、対台湾)は米国海軍の覇権への挑戦でしょう。これらは地政学的リスクの影響を受けているものです。

 

気候変動の影響という観点では、スエズ運河が干ばつによって水位が保てず通行量が減少したり、温暖化で氷河が溶ける北極海ルートの開拓/通行量増加も見られ始めています。また、技術革新による知識経済の発展はデータセンターの重要性に繋がり、データセンターを繋ぐ海底ケーブルは破壊工作の格好の標的になってしまっています。

 

気になるファクトとしては次の三点です。

  • Some 80% of trade by volume and 50% by value travels on a fleet of 105,000 container ships, tankers and freight vessels that ply the oceans day and night, taken for granted by the people whose livelihoods depend on them.

  • Today 62% of containers are carried by five Asian and European firms, 93% of ships are built by China, Japan and South Korea, and 86% are scrapped in Bangladesh, India or Pakistan. The US navy’s specialist role has been as the near-monopoly provider of security, using over 280 warships and 340,000 sailors.

  • And the West’s use of sanctions has triggered a smuggling boom: 10% of all tankers are part of an anarchic “dark fleet” operating outside mainstream laws and finance—twice the share of 18 months ago.

 

国際統合を進めすぎた結果として、ある特定国への依存度が高まってしまっている状況は、西側諸国が中国やロシアをサプライチェーンから締め出す必要性に繋がってしまい、投資不足の業界は簡単には追いつけないでしょう。同じく、対ロシアを中心とする欧米諸国の経済制裁の結果、ならず者船団が増えてしまい、かえって海上の無秩序を助長しているようにも見えます。今年は各国の選挙イヤーなので国内政治機運が高まり、海上輸送ルートの再編成あるいは海軍への支出を各国ふやすようなことにも繋がっていくのかもしれません。

 

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米国オイルメジャーの動き

1月6日号の The Economist 誌から Exxon と Chevron の最近の動きについての記事がありました。

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曰く、Exxon による 645 億ドルでの Pioneer の買収、Chevron による 600 億ドルでの Hess 買収は、両社の石油ガス業界における影響力確保を目指したものであり、次の3つの理由から両社が成功するものと同誌は見ています。

 

1つ目の理由は、生産コストの低い油ガス井戸への集中。2つ目の理由は、(エネルギー地政学ではなく)経済性によって生産量を決められる点。そして、特にヨーロッパのライバルである Shell と bp と比較した際の脱炭素戦略の有効性です。

 

最後に同誌は懸念としてシェール鉱区の予想以上の枯渇、そして地政学リスク、具体的にはベネズエラによるガイアナ侵攻(併合?)を挙げています。ただ、どちらも可能性はあっても蓋然性は低いと思われれますので、現状の Exxon 及び Chevron の企業戦略の見通しは明るいでしょう。

特に、欧州オイルメジャー(特に Shell と bp)が再エネ含む低炭素電源での勝負に出たのに対して、米国オイルメジャーは CCS (Carbon Capture and Storage)技術やクリーン水素製造技術といったコアビジネスである石油ガス技術を活用できる技術に賭けているため、戦略的優位性があると個人的には思います。

 

補足ながら Exxon に至っては新技術による EV 用リチウムの生産開始計画を発表しており、脱炭素のプレッシャーの中で、短期的なキャッシュ獲得手段(シェール鉱区からの生産)及び長期的なキャッシュ獲得手段(ガイアナのような伝統的な鉱区からの生産)も気にしつつ新しいチャレンジも重ねており、今後詳しく見ていきたいです。

www.jetro.go.jp