英国 The Economist 誌を読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economist を読んだ感想を書きます

オーストラリアの反暗号化法案可決の影響

The Economist 誌の12月15日号にオーストラリアのサイバーセキュリティ対策法案に関する記事が載っています。

https://www.economist.com/asia/2018/12/15/an-australian-law-to-expose-vice-annoys-the-tech-world

 

曰く、オーストラリアにおいて暗号化されている通信を警察機関や国家安全保障機関が傍受したり読み取れるようにする法案が可決されたとのことで、効力を有することになるそうです。

 

違反企業には罰金が課せられますが、AppleMicrosoft, Google といった大企業は遵守しないでしょう。特に、Apple は FBI からの要請を断っている過去もあります。従い、この法案は結果的にテクノロジー企業を(比較的小規模な)オーストラリア市場から撤退させることに繋がりかねない、と同誌は見ています。

 

個人的には Signal というアプリを Line の代わりに使い始めて長くなりますので、かかる法案が通過したことによって、連絡手段がほぼなくなってしまうなぁという印象を持っています。もちろん Apple に頼ることが一義的なものになりますが、いずれにしても様子を見ていきたい分野です。

 

貝殻の激変

12月8日号のThe Economist 誌にオイルメジャー Shell の劇的な変化について記事が載っています。

 

www.economist.com

 

曰く、Shell はオイルメジャーで初の炭素排出量削減の短期目標設定を発表した会社となりました。この短期目標は Shell の石油ガス生産からの排出のみならずその製品を燃やした後に排出される分に関しても考慮しているとのことです。加えて、米国だけで年間1億ドル以上費やすロビイング団体との関係見直しや、目標達成した際の役員報酬についても株主に提案しているようです。

 

近年、オイルメジャーはパリ協定に理解を示し OGCI にて自発的な削減努力を議論していますが、気候変動に係る戦略は各社異なります。そのような中で Shell が率先したこの動きは実に興味深いです。

 

安定した収益を誇り、配当で株主を魅了してきた(第二次世界大戦以降配当が途切れたことがない(!))Shell にとっても、この目標設定は重たい枷になるでしょう。とはいえ、 Shell でさえ無視できないレベルにまで高まってきた炭素排出量削減の波を前に、他のオイルメジャーそして石炭などの資源メジャーはどう対応していくのでしょうか。そして、彼らから石炭や LNG を輸入している日本の電力ガス会社もどうしていくのでしょうか。気になります。

オーストラリアとニュージーランドの原住民

12月1日号の The Economist 誌から紹介したいのはこの記事です。

www.economist.com

オーストラリアの原住民であるアボリジニニュージーランドの原住民であるマオリの違いについて述べられている記事で、非常に示唆的でありました。曰く、アボリジニはオーストラリア人口の約3%を占めるのみで、形式上は国土の31%の権利を(狩猟権や漁業権などを通じて)保有していることになっているが、実際には一部の例外を除いて、実質的な所有権を有しておらずプロジェクトの拒否権も有していません。

 

他方、マオリニュージーランド人口の15%を占めており、収入もアボリジニの二倍以上を稼いでおり、刑務所に行く確率もアボリジニより低いそうです。この違いは、もちろん、植民地としての歴史の違いも寄与しているそうですが、マオリ自体から来る違いもあるそうです。

 

その最たるものがマオリの入れ墨であり、これは白人社会にも大きく受け入れられているものであり、また、ニュージーランド人は男女とも世界一強いラグビーでの成功を歓迎し、特にマオリの文化であるハカを試合前に踊ることに誇りを持っている点が異なります。

 

アボリジニの不遇はアボリジニ自体にある、とも読めてしまう記事ではないかと思いましたが、中国と日本の歴史的な処遇に鑑みると、やはり歴史的な差異が最も大きいのではないかと思ってしまいます。

日産・三菱・ルノーの未来

11月22日号の The Economist 誌の気になった記事はやはりこの話題です。
 
日産がこのタイミングで発表した理由について、本邦の新法案を利用する意図があるのではないか、や、日産社内の反ゴーン派によるものではないか、と疑念を残す形で記載しているように読めますが、ここにも文化的な差異があることを示唆しており、ゴーン氏がパージされることについては「正当化されてもしかたがないのでは」との見方も示しています。
 
同誌は、ゴーン氏の代わりになる人材を三社が見つけ出すことは厳しいとしています。そして、もしアライアンスが崩壊するようなことになれば、ルノーも日産も規模の面から厳しい状況に置かれるとの見方です。同アライアンスが持つ潜在的な力は自動車業界を変え得る力もあるので、その不確実性が高まることは、良いことではないのでしょう。ただし、実際の帰結がどうなるかについては、現状わかりません。

日本の少子高齢化を解決できるのは

The Economist 誌の11月17日号に、日本の少子高齢化に関する記事が二本載っていました。そのうちの一つを紹介します。

www.economist.com

まずは事実を淡々と並べているのですが、これが殊の外衝撃的な数字でした。人口は毎年40万人減(!)、平均寿命が84歳(世界一)、65歳以上が人口の28%、百寿の方が69,785人。GDPの250%の公債、労働力不足(2030年には58百万人)。どれも実際にファクトとして認識すると、手の付けられない規模にも感じます。

 

同誌曰く、移民が解決策の一つだろう、と触れます。でもこれは、分かり切ってますよね。次が、定年の上限をあげること。とはいえ日本は既に65歳以上の労働者比率が世界各国と比較しても高い状態です。それでも年金の支給タイミングを遅らせることができるので、一石二鳥で安倍首相も進めていくだろう、とのこと。

 

それでも移民が必要である、というのが The Economist 誌の締め方でした。文化的な背景・違いもありますが、同じ島国であるイギリスがどういう政策を取ってきていて、その結果どうなっているのかということを考えると、非常に皮肉的なコメントだな、と感じました。

ゲーム規制が市場を殺すのか

11月8日号の The Economist 誌にゲームに関する記事が載っています。

www.economist.com

曰く、中国でのゲーム規制が Tencent 株 28 %株価下落を招いたように、日韓でも同様の規制が通る可能性があり、業界は対応を迫られているとのこと。

 

娯楽産業としてのゲームはその幅を広げており、ついには e-Sports としてスポーツ産業のパイも食べようとしています。対応を迫られている対面業界からのプレッシャーあるいはロビイストの活動があるのではないかと想像します。スポーツ業界、あるいは映画や玩具業界、場合によっては薬物業界などでしょうか。

 

とはいえ、ゲームの中毒性や射幸性は社会問題になっていますから、その対応は不可避でしょう。しばらくは形式上でも規制に従うような姿勢を見せない限り、業界全体として沈む可能性があります。ここは適切な判断ができる政治家の登場を待つ(あるいは送り込む)ことが重要ではないでしょうか。

 

HBO の Netflix への反撃が始まる…

11月1日号の The Economist 誌 に Netflix 対 HBO (AT&T) に関する興味深い記事が載っています。HBO (Home Box Office) はアメリカの有料 TV 配信企業であり WarnerMedia の傘下であり、2012年に Netflix は 「我々の目標は HBO が Netflix になる前に HBO になることである」と宣言し実際に打ち勝ちましたが、HBO の反撃が待っている、という記事です。

www.economist.com

曰く、HBO の親会社である Time WarnerAT&T が 1090 億ドルで買収したことにより、同社の新メディア WarnerMedia の主戦力として HBO が Netflix に対する反撃を始めるだろうとみています。AT&TFacebookGoogleAmazonNetflix に対して戦う姿勢を見せており、その一翼を担う HBO には一定の予算がつくのではないか、と同紙は見ています。

 

HBO は購読者数で Netflix に大きな差をつけられていないものの、彼らの購読者は直接ではないため顧客のデータにアクセスすることができないという問題を抱えています。また、個人データに依って大量のコンテンツを用意している Netflix と異なり、HBO は数少ない大ヒット作品によって購読者数を増やしており、構造的には既に確立したブランドに傷をつけないような運営が求められています。

 

 

逆転の材料としては、WarnerMedia が持つ大人気映画やテレビドラマが HBO に加わることです。Netflixウォルマートで、HBO はティファニーであるとする AT&T の戦略に基づいて、HBO がこれからどこまでシェアを取り返していくのか、注目に値すると思います。