英国 The Economist 誌を読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economist を読んだ感想を書きます

離婚がもたらす最強の本屋への影響

The Economist 誌の1月17日号にAmazon創業者のベゾス夫妻の離婚に関する記事が載っています。(私の中で Amazon は依然として本屋のイメージが強いです)

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ベゾス夫妻が住むワシントン州においてベソス夫人は離婚によって資産1370億ドルの半分を得る権利があるそうです。もともとベゾス氏は他のテック企業の創業者と異なり、Amazon 社の株式保有率が16%と低く、特別な投票権や会社のコントロール権も有していません(Facebook社創業者のザッカーバーグ氏は51.3%を保有し会社をコントロールしています)。

 

この 16% が 8% になる場合、たとえば機関投資家の Vanguard 社はすでに 6% を有していますので、Amazon におけるパワーバランスにも変化が生じるでしょう。(また婦人はベゾス氏の進める案に反対する可能性も高く、思うようなかじ取りが出来ないことも予想されています)

 

また、離婚後のベゾス氏は失った財産を取り戻すために、きわめて挑戦的な経営判断をする可能性があります。これは多くの離婚した経営者に見られる傾向のようです。専門家の中には、Tesla 社創業者のマスク氏よりもベゾス氏の方が「替えの効かない CEO」とする見方もあり、今後の Amazon 社の動向および離婚のもたらす影響について見ていきたいと思います。

都市部から地方への移住と移民

1月10日号の The Economist 誌にオーストラリアの移民に関する記事が載っていました。

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曰く、オーストラリアのある田舎町で400人程度のクルド人(ヤジド派 - イラクやシリアの少数派)難民受け入れにより、大学は英語教室で溢れ返り、学校は保護者のための通訳者を雇い、町には見たことのない病気が流行っているとか。この人道的難民受け入れは移民政策の一環で地方の人口減への対応として期待されているそうで、特に農家では人手不足が深刻であるため、空いている農場活用に移民(同国都市部からの!)受け入れを積極的に行っているみたいです。これは人口増で苦しむ都市部へも寄与しているとのこと。

 

その上、現政権はこれを更に積極的に進めて、50万人規模の外国留学生をシドニーメルボルンではなく地方大学に進むようビザ要件変更やインセンティブ設計を検討しているようです。同誌としては、そもそもシドニーメルボルン自体が移民によって繁栄している街であるし、待遇を下げてしまうと誰もオーストラリアに来なくなるんじゃないの?と締めています。


現状、先進国としてのオーストラリア(特に都市部)の魅力は高いけれど、それに伴って増加している生活コストが高すぎる。そのため「人道的難民」のようなキャッチーで世界に貢献している形を示すことができる解決策はとてもいいと思います。とかく英語を話す国であれば移民後の次世代(いわゆる移民二世や三世)が活躍できる可能性を秘めているから、親世代は苦労してでも(それが仮に田舎だとしても)オーストラリアに行きたいと思うのではないでしょうか。

伝統的な捕鯨と IWC 脱退

新年最初の The Economist 誌は1月3日号です。今回は日本の捕鯨に関する記事(社説)が載っていました。

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同誌曰く、安倍首相が保守派に配慮した政治的な結果であるとのこと。ロシアとの北方領土問題での妥協や外国人労働者の受入増加によって不満の溜まっている保守派に対して、日本の伝統的な捕鯨を守ることを示すことは都合の良い策であるとの見立てです。筆者は補助金で支えられている捕鯨は徐々になくなっていくべきだ、と〆ています。

 

日本が IWC (International Whaling Commusion) から 2019 年に脱退する予定であると知れると、日本はオーストラリアをはじめとする世界各国から非難されています。これはアメリカがパリ協定から脱退すると表明した時と同じような状況と言われています。

 

そもそも(実際問題として南極海での調査捕鯨を継続するだけの資金的余裕もあまりないように見える)日本は IWC から脱退したとしても南極海での捕鯨は行わないと約束しており、オーストラリアとニュージーランドにとっては、ともに中国と対峙する日本との外交的なしこりが取れることになるでしょう。また日本国内でのクジラ肉の需要も少ないのが実態です(同誌は学校給食や老人ホームでの食事にしか使われないだろうとしています)。

 

面白いなと感じたのは、この社説は伝統的に捕鯨を文化としてきた国々への言及をしていることです。IWC からの脱退は日本の領海での捕鯨(ミンククジラ)を可能にして、ミンククジラに捕食されていた魚の漁獲量も上がることになるでしょう。尤も、IWC の構成国に領海を持たない国が入っていることも相互理解コンセンサスを醸成できない原因であるとも考えられますし、今次的にはそれぞれの国の伝統を重んじる姿勢をもっと強く示すべきだと思います。(捕鯨を非難するオーストラリアでは、カンガルーを食べます)

ソフトバンクの上場ゴール

The Economist 誌の12月18日号にソフトバンク上場に関する記事が載っていました。

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多くの人が予想できなかった「公募割れ」という結果で終えたソフトバンクIPO は日本過去最大の IPO となり、アリババの IPO にわずかに届かない約2兆6000億円という巨額の調達を達成しました。同社は日本の携帯事業で第3位であり、国内通信事業は7000億円の部門利益をたたき出しています。

 

上記の通りソフトバンクの利益の源泉である事業ですが、今後人口減となる日本国内市場は成熟しており、また、楽天が携帯事業参入を表明するなど競争も加わります。また、先日の大規模停電という別の解決するべき問題も抱えている状況でしたが、大々的に行った TV コマーシャルの効果もあってか、無事に調達完了(株主にとっては散々でしょうが)ということです。

 

孫さんにとっては、IPO から得たキャッシュを VISION ファンドに投入するのでしょうし、ソフトバンク株の低迷の原因となっている(携帯事業のような安定ビジネスを好む)保守的な株主の割引を避けられる契機になるかもしれないでしょう。とはいえ、 VISION ファンドはサウジとの繋がりが深いため、ジャーナリスト殺害の疑惑が晴れない限り、「サウジ色のついた」お金をベンチャー企業が受け入れない可能性もある、という見方もあります。

 

それでも今回の調達によって、手元に現金を得られることで非常に安心して進められるのではないでしょうか。IPO に運悪く当たってしまった投資家たちにとっては、悲惨な道のりのスタートなのでしょうが。

オーストラリアの反暗号化法案可決の影響

The Economist 誌の12月15日号にオーストラリアのサイバーセキュリティ対策法案に関する記事が載っています。

https://www.economist.com/asia/2018/12/15/an-australian-law-to-expose-vice-annoys-the-tech-world

 

曰く、オーストラリアにおいて暗号化されている通信を警察機関や国家安全保障機関が傍受したり読み取れるようにする法案が可決されたとのことで、効力を有することになるそうです。

 

違反企業には罰金が課せられますが、AppleMicrosoft, Google といった大企業は遵守しないでしょう。特に、Apple は FBI からの要請を断っている過去もあります。従い、この法案は結果的にテクノロジー企業を(比較的小規模な)オーストラリア市場から撤退させることに繋がりかねない、と同誌は見ています。

 

個人的には Signal というアプリを Line の代わりに使い始めて長くなりますので、かかる法案が通過したことによって、連絡手段がほぼなくなってしまうなぁという印象を持っています。もちろん Apple に頼ることが一義的なものになりますが、いずれにしても様子を見ていきたい分野です。

 

貝殻の激変

12月8日号のThe Economist 誌にオイルメジャー Shell の劇的な変化について記事が載っています。

 

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曰く、Shell はオイルメジャーで初の炭素排出量削減の短期目標設定を発表した会社となりました。この短期目標は Shell の石油ガス生産からの排出のみならずその製品を燃やした後に排出される分に関しても考慮しているとのことです。加えて、米国だけで年間1億ドル以上費やすロビイング団体との関係見直しや、目標達成した際の役員報酬についても株主に提案しているようです。

 

近年、オイルメジャーはパリ協定に理解を示し OGCI にて自発的な削減努力を議論していますが、気候変動に係る戦略は各社異なります。そのような中で Shell が率先したこの動きは実に興味深いです。

 

安定した収益を誇り、配当で株主を魅了してきた(第二次世界大戦以降配当が途切れたことがない(!))Shell にとっても、この目標設定は重たい枷になるでしょう。とはいえ、 Shell でさえ無視できないレベルにまで高まってきた炭素排出量削減の波を前に、他のオイルメジャーそして石炭などの資源メジャーはどう対応していくのでしょうか。そして、彼らから石炭や LNG を輸入している日本の電力ガス会社もどうしていくのでしょうか。気になります。

オーストラリアとニュージーランドの原住民

12月1日号の The Economist 誌から紹介したいのはこの記事です。

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オーストラリアの原住民であるアボリジニニュージーランドの原住民であるマオリの違いについて述べられている記事で、非常に示唆的でありました。曰く、アボリジニはオーストラリア人口の約3%を占めるのみで、形式上は国土の31%の権利を(狩猟権や漁業権などを通じて)保有していることになっているが、実際には一部の例外を除いて、実質的な所有権を有しておらずプロジェクトの拒否権も有していません。

 

他方、マオリニュージーランド人口の15%を占めており、収入もアボリジニの二倍以上を稼いでおり、刑務所に行く確率もアボリジニより低いそうです。この違いは、もちろん、植民地としての歴史の違いも寄与しているそうですが、マオリ自体から来る違いもあるそうです。

 

その最たるものがマオリの入れ墨であり、これは白人社会にも大きく受け入れられているものであり、また、ニュージーランド人は男女とも世界一強いラグビーでの成功を歓迎し、特にマオリの文化であるハカを試合前に踊ることに誇りを持っている点が異なります。

 

アボリジニの不遇はアボリジニ自体にある、とも読めてしまう記事ではないかと思いましたが、中国と日本の歴史的な処遇に鑑みると、やはり歴史的な差異が最も大きいのではないかと思ってしまいます。