英国 The Economist 誌を読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economist を読んだ感想を書きます

中国産新型コロナウィルス

The Economist 誌の 1 月 30 日号に中国武漢で発生した新型コロナウィルスについての社説が載っています。

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記事を読んで三点気になることがあります。

 

一つ目に、記事が出ている時点での情報をもとに考えれば、科学者たちは非常に良い仕事をしている一方で中国(や武漢)の政治家はそれほど上手くやれていないというイメージを植え付けている点です。特に、武漢では即座に隔離政策を取ったように見えつつも実際には約100万人もの感染可能性のある人々を省外に出してしまっていることが問題に見えます。が、感染した可能性のある人々を救出しにチャーター便を飛ばした全ての国に同じことが言えるような気もします。

 

二つ目に、新型コロナウィルスの爆発的な広がりに対しては脅威を感じるべきであるものの、インフルエンザのような身近なウイルスによっての死亡者数についてもきちんと理解するべきであるということです。同誌によれば、二年前のアメリカでは6万人以上がインフルエンザによって死亡しています。もちろんこの数字と現在の死亡者数をアップルアップルで比較することは適切ではありません。最終的な数字については、数か月後に詳細に語られるのを待たなければいけません。

 

三つ目に、最後の段落において気候変動の影響で新型ウイルスが出てくるような示唆を行っていることです。人とウイルスの戦いの歴史について勉強していないので態度を保留しますが、気候変動とは独立して人とウィルスは戦っているのではないかと思っています。そのため、レトリックが単なる論点の混合のように見えて、モヤモヤした状態で締めくくられてしまっています。

年初の原油市場 - イラン・アメリカ戦争回避と米中貿易戦争回避

The Economist 誌の1月16日号に原油市場に関する記事が載っていました。

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曰く、供給面でのリスクの顕在化が継続しているとのこと。中東情勢の不安定さによって、石油生産関連設備への攻撃は現実的リスクとして認識されている。また、イランとアメリカの二国間関係の悪化に伴って、OPEC石油生産量2位となっているイラクが急遽生産量を落とさざるを得ない状況となるリスクも認識されています。

 

良いニュースは、サウジアラビアの生産量が昨年9月の生産設備への攻撃から順調に回復していることです。一方で、アメリカ、ブラジル、ノルウェーからの供給が見込まれており、中東でのリスクの高まりに対して、原油市場の反応は穏やかになるとの見方もあります。とはいえ、今年の原油市場も中東中心になるのでしょうが。

 

同誌は米国トランプ大統領が中東原油生産に対する影響力行使に無関心であることに触れています。彼はカータードクトリンに固執つもりはない、というのが同誌の見立てであり、シェールオイルによって生産大国となったアメリカから見れば優先順位の変更があったとみるのが自然でしょう。

米国ドル覇権

The Economist 誌の1月16日号に基軸通貨としての米国ドルに関する記事が載っています。

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曰く、世界の貿易額の約半分が米国ドル決済であるとのこと。米国は9.11テロ以降、経済制裁に本腰を入れるようになり、トランプ政権においてもその基本姿勢を踏襲しつつ、さらに強化している状況です。経済制裁の妙は、米国ドル決済を使わせないことであり、制裁対象国を国際貿易から孤立させる力を有し、多くの場合、致命的な効力を持ちます。

 

当然、他の大国はこの手法を忌避しているため、代替システムの構築に躍起になっています。ロシアではエネルギー企業がルーブル建ての決済を始めています(同様に中国とベネズエラ人民元建ての原油取引をしています)。インドや中国も同じ動きをし、EU も米ドルを介さない取引ルートを模索していますが、現時点では功を奏したとは言えないでしょう。むしろ、ユーロやルーブル人民元といった通貨自体のリスクも見過ごすことができず、実際に代替システムが使用可能となるのは先とみる専門家も多いそうです。

 

経済制裁の緊張がより一層高まると金融危機に繋がるリスク(たとえば一兆ドル以上の米ドル資産を持つ中国の銀行がターゲットになった場合)、米国ドルの覇権がより政治的なものになった場合の金融政策の硬直リスク、そして米国ドル金融の世界からの移行は予測が難しく突然発生するリスクを三大リスクとしています。日本も米国債保有額が相当なものとなっているため、対岸の火事と見ているわけにもいかないでしょう。

オーストラリアの森林火災と原因

The Economist 誌の1月11日号からのオーストラリアの森林火災 (bushfire / megafire) 記事です。

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オーストラリアでは2009年に173人が亡くなった森林火災が発生しています。この経験により火災時の緊急避難や住宅建築の際の基準などが圧倒的に整備されているにも関わず、今回のような大規模森林火災となりました。

 

別の記事でも書きましたが、オーストラリアの平均気温は近年上昇しています。この暑い夏(南半球なので日本の冬が夏)と降水量の少なさが原因ともされています。また、暑い夏の期間が長くなっていることが、森林火災規模拡大の原因という専門家もいるそうです。

robeyqi.hateblo.jp

オーストラリア政府は最終的に資金を投じる発表をしたものの、森林火災が発生し延焼していた10月ではなく2か月近くたった12月に初めて資金投入しています。これは保守的な支持層にも支えられて、気候変動対策に対して曖昧な政策態度を取っている現政権としては自然なことでしょう。しかし、オーストラリア国民の61%が気候変動は差し迫った問題だと認識していると示す世論調査データもあります。

 

オーストラリアの森林火災から学ぶべきこと

The Economist 誌の1月9日号にオーストラリアの森林火災に関する記事が載っていました。

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現時点で26人が死亡、2,300戸以上の住宅が燃え、約5億匹以上の動物が犠牲になった史上最大級のオーストラリアの森林火災は昨年9月から燃え始め今ではおよそ1,100万ヘクタール、ブルガリアの国土面積に匹敵する土地が延焼しているとのこと。

 

今回のオーストラリアの森林火災から学ぶべきこととして同誌は三つ挙げています。一つ目は、気候変動の影響により森林火災が発生しやすくなっていること。実際に、オーストラリアでは2019年は1910年以降最も平均気温が高かった年(長期平均から1.5℃も高い年)である一方で降水量は平年より40%も低い年(1990年以降最も低い水準)であったそうです。

 

二つ目は火災が悪化した場合に通常の対策では追い付かないということ。実際に、オーストラリアは各国に先立って森林火災対策を行っていたのにも関わらず、消防士の命が犠牲になる結果となりました。火災が発生した場所はもはや人間が住める地域ではなくなっているのかもしれません。火災保険のプレミアム高くなれば、人々は不動産を所有しようとは思わないでしょう。

 

最後に、気候変動の影響が目に見えて現れるようになると、人々の行動も変化するという点です。特に、オーストラリアでは昨年の総選挙で気候変動問題に懐疑的な有権者によって大規模石炭プロジェクトが支持され、クイーンズランド州をオーストラリアから切り離そうとする "Quexit" というインターネットミームが生まれるほどに議論されました。しかし、大規模火災が貴重な自然や個々人の財産、そして尊い命を奪うようになると、環境デモの数も増えていくでしょう。同じことがオーストラリア以外でも広がると同誌は見ています。

 

それでもミクロな人々は気候変動問題に真剣には取り組まないでしょう。国や共同体によるマクロな枠組み設定(炭素税など)がなければ、ビジネスはお金を儲ける最短の道だけを追求するだけです。個々人の取り組みでは変化させようがないレベルの話であり、対岸の火事から各国政府が真剣に学び対策を取ることが重要であると思っています。

マネージャーへの8つの提言

The Economist誌の1月4日号からいつもとは違った毛色の記事を紹介します。

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詳細は割愛しますが、マネージャーへの8つの(新年の)提言として以下が示されています。

  1. 部下を褒める。
  2. あなたが雰囲気を作っていることを忘れないように。 
  3. 責任を取る。
  4. 優先順位を明確にする。
  5. 平易な言葉を使う。
  6. 部下の意見も聴く。
  7. 会議を短くする。
  8. チームビルディング研修はやめる。

 

中でも個人的には 3が最も心に響きましたので、全文を引用します。常に忘れないようにしていきたいです。

 

The buck also stops with you. If a team member makes a mistake, it needs to be fixed. And the manager is responsible for making that happen. It may well be that the mistake stems from inadequate instructions or giving the task to the wrong person. So the manager, as well as the staff member, needs to learn a lesson from the failure.

 

英国のパブから米国へとダーツの旅

1月4日号のThe Economist誌からダーツに関する記事が載っていました。

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曰く、ダーツはこのクリスマス休暇の間にフットボール(サッカー)の次に視聴されたスポーツ番組であったとのこと。正直、驚きました。日本で考えれば、野球やバスケといった競技が先に来るでしょうし、ボクシングなどの格闘技よりもダーツの人気が上回るようには思えません。

 

ダーツはイギリスのパブ発祥と言われており、小太りのおっさんがプレーする酔っぱらいの遊び、とのイメージが定着し、スポンサーがつかずテレビなどから消えていたとのこと。しかし近年業界の努力により、着実に人気を高めているようです。

 

来年行われる World Darts Championship の次の開催地がニューヨークとなっており、新しいマーケットへの進出と前向きにとらえられているものの、World Darts Championship のスポンサーは基本的にブックメーカーであるため、多くの州でスポーツへの賭け事が禁止されている米国進出は順風満帆とはいかないのではないかと同誌は締めくくっています。